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ルポ 森林を歩く

猿島・小網代の森

神奈川新聞平成8年元旦第63面記事より

 ここでは平成8年1月1日に、神奈川新聞第63面紙面に掲載されました「ルポ森林を歩く」の記事を、神奈川新聞社のご了解を頂き、転載・ご紹介させて頂いています。( Feb.1996. ~ ....... )

「この記事は、K1 Home Pageの金井実に、神奈川新聞社が転載を許諾したものです。この画面をご覧なさっておられる方が複製してパソコン通信や他のインターネット画面などに再使用することはできません。 神奈川新聞社が所有する著作物であり、無断コピー、無断転載は厳禁されています。」


 黒漸の支流が流れ込む東京湾と相模湾に囲まれた三浦半島は、温暖な気候に恵まれ、亜熱帯起源の植物の北限地とされる。県立博物館が一九九五年に発行した「レッドデータ生物調査報告書」によると、「東京から六十〜八十キロの距離に、白然海岸と照葉樹林の見られる地域は三浦半島をおいてない」と、自然環境の素晴らしさをたたえている。縄文時代の植生を今に伝える猿島(横須賀市)と広大な二次林が残る小紺代の森(三浦市)を歩いてみた。


猿島

照葉樹林がこんもり  観光開発などで破壊も

picture1  昨年七月、横須賀・三笠公園沖に浮かぶ猿島への観光航路が二年ぶりに復活した。市街地から二キロ足らず、周囲一・六キロの東京湾に浮かぶ唯一の自然島だ。暑い夏の盛りにはヤブ蚊の攻勢に悩まされたものだが、初冬の島はシイ、タブを中心とする照葉樹林の濃い緑に交じって、エノキなど落葉樹の紅某が映えていた。
島の船着き場から向かって左側の南斜面には、照葉樹林の樹冠がこんもりと茂る。縄文時代の植生の面影が最もいい状態で残っているとされる場所だ。高木のタブ、モチノキ、エノキが茂り、ヤブツバキも目立つ。その下にば、シロダモ、カクレミノ、イヌビワ、ガクアジサイ、アオキ、トベラなどが密生している。島はいつごろから照葉樹林になったのだろうか。「三浦半島には、二千〜五千年前ごろ、それまでの落葉樹に代わって常緑の照粟樹が入ってきたとみられる。そして二千〜三千年前から照葉樹が中心になり、その樹相を現在に伝える一例が狼島だ」(大森雄治・横須費市自然博物館学芸員)
picture2 開けて太陽の光が差し込む明るい場所にばカラスザンショウ、アカメガシワ、オオシマザクラなどが生えてくる。しかし、手を加えずに放っておくとシイ、タブ類の照葉樹に置き代わっていく。照葉樹が生長すると、林が暗くなって落葉樹が育ちにくくなっていくのだという。
猿島が原始の姿をとどめている大きな理由は、近代になって砲台が築かれ、一般人の立ち入りが禁止されたからだとされる。幕末から太平洋戦争終結までの七十年余にわたって利用された要塞(ようさい)跡が今なお生々しく残っている。
こんな歴史から、島全体が原姶のままの姿を維持しているわけでばない。砲台造りや観光開発で島の自然は破壊された。特に島中央部は道路や建造物による破壊がひどい。垂直の切り通しに、ヤブツバキなどのむき出しになった根が、しっかりと生えている光景も見られる。 中央平たん部ハ落葉広葉樹のミズキ、アカメガシワや背丈の低いメダケ、ススキなどの群落地になっている。人手が加わったことで植生が複雑化し、場所によって常緑樹と落葉樹が混在している。
猿島は南北四百五十メートル、東西二百メートルの小さな島。中央部を貫く道をトンネルをくぐりながら二十分も歩けば島北端の岩場に出る。目の前に東京湾が開け、大小の船やタンカーが頻繁に往来している。


小網代の森

1300種超す生物が生息  人の手入らず生態系維持

picture3  三浦半島の自然の象徴ともいえる小網代の森。面積約百ヘクタールの森は、集水域の生態系を維持した首都圏でも貴重な存在だ。現在は人の手が入らず、うっそうとしたままだが、つい四十年ほど前までば薪炭用の木材として、地域の人の暮らしに欠かせぬものだったという。
昭和二十年代ごろまで人手が徹底的に加わったため、落葉樹と常緑樹が混在する典型的な二次林でもある。家庭用エネルギーの変化とともに生活から切り離された森が、今や千三百種を超える生物が生息する自然の宝庫だ。
小網代湾の干潟。森の中心部を流れる浦の川が、源流から小網代湾にたどり着く前の河口にある。満潮時にば海水が満ちているが、潮が引くと長靴で歩ける湿地が露出する。この森のシンボルともいえるアカテガ二、求愛のしぐさがかわいいチゴガニなど、夏には多くのカニを見つけることができる。
森の中を歩くと、コナう、ミズキ、マテバシイなどの雑木林が広がる。所々に枯れた木が倒れている。木自体の重さに耐えかねたのか、根を頭にして逆さに倒れている木もある。何十年も人の手が加えられていないことをうかがわせる。「樹木の枝払いがされず、つるや下草が伸び放題だからといって、『森が荒れている』というのは稲作農耕文化の人の価値観。手入れがすべてではないという新しい価値観で見詰めなければ」とナチユうリストの柴田敏隆さん。柴田さんによると、小網代の森ば落某樹(夏緑樹)に代わっで常緑樹が主役になりつつあるという。それを裏付けるかのようにシイ、タブなど照粟樹で森全体が暗く覆われて一いる。
picture4 湿地に時折、足を取られながら前に進む。かつてば水田が広がっていた場所だ。ササが覆いかぶさる「トトロのトンネル」を腰をかがめて通 る。音、人が一歩いていた名残なのだろうか、人ひとりやっと通れるほどの広さだ。この付近でtは湿地を好むハンノキも多い。
森の中を流れる清流のあちこちにば、赤茶けた泥のようなものから油っぽいものが染み出ている。これはバクチリアの一種の鉄細菌で、士や水を浄化する作用がある(小網代つうしん=小網代を守る会発行)。このバクチリアが、源流に生活雑排水が流れ込む浦の川の水を、きれいな水によみがえらせている。



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小網代の森の生き物たち(朝日新聞社掲載記事より)

小網代の自然

小網代で見つけた珍しい生き物について教えて下さい。(オオサルパ?)

小網代の自然について知りたい方へ(関連書籍の紹介)

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